イメージAIによる雇用への影響を追っていると、既存の社員が減るより先に、新しく人を採る側が止まっていることに気づきます。誰かが職を失うわけではないので、失業率にも解雇の統計にも表れません。しかし数年後には、その職種で働いている人数は確実に減っています。
米国の研究がこの動きを数字で示しました。ハーバード大学の研究者が2015年から2025年に米企業28万社超で働いた6,600万人の履歴書と求人データを分析したところ、生成AIを導入した企業では2023年以降、実務経験の少ない層を対象とする採用が四半期あたり約8割減っていました。同じ企業で経験者の採用は増え続けています。需要が経験の有無で割れているということです。
理由は分かりやすいものです。多くのホワイトカラー職で、キャリア初期に任される仕事はコードのデバッグ、法務文書のレビュー、資料作成、データ入力といった定型作業です。これは生成AIが最も得意とする領域とほぼ完全に重なります。かつては「新人にやらせながら覚えてもらう」ことができた仕事が、いまは新人を待たずに片付いてしまう。
日本でも採用の側から動いています。大卒求人倍率は2025年卒の1.75倍から2026年卒は1.66倍へ下がりました。とくに情報通信業は2.15倍から1.90倍へと落ちています。求人倍率の全体値だけを見ると1.66倍は依然として「売り手市場」ですが、業種と企業規模による差が非常に大きく、2026年卒では従業員300人未満が8.98倍、5,000人以上が0.34倍です。大企業の入口は、統計上すでにかなり狭い。
採用の実務そのものにもAIが入っています。学情の調査では、キャリア採用の業務で生成AIを利用している企業が28.7%に達しました。一方で「今後も人が担いたい業務」として最も多く挙げられたのは面接・面談で75.3%です。求人票の作成や書類の一次確認といった前半工程から自動化され、人の判断は最後の見極めに集中していく形です。
この構図には、統計に表れないという以上の問題があります。育成の入口が閉じることです。定型作業を通じて仕事を覚える経路が消えたとき、5年後・10年後に経験者として採用される人材はどこから来るのか。帝国データバンクの調査では、生成AIの活用による人材面の懸念として「若手が育たなくなった」を挙げた企業が2.2%ありました。比率としてはまだ小さいものの、懸念として言語化され始めています。
中国では別の形で線が引かれました。浙江省杭州市の裁判所は2026年4月、AI導入を理由に従業員を降格・減給し、拒否されたのちに契約を解除した企業の措置を違法と判断しています。「AI導入は企業側の経営判断によるものであり、客観的状況に重大な変化が生じるとはいえない」という理由でした。既存の雇用を守る方向の判断です。ただし、採用しないことを規制する法律はどの国にもありません。
AIの影響を「誰が職を失ったか」だけで測ると、この動きは丸ごと抜け落ちます。AI失業.comが求人倍率や採用計画の数字を、イベントとは別の指標として持っているのはそのためです。カウンターに足せる人数ではありませんが、雇用の変化としては同じ話だと考えています。
本記事は AI失業.com 編集部が、イベントデータベースに登録された情報をもとに作成した解説です。 元になったイベントの一次情報・信頼度・AIとの関係の判断根拠は、下記の詳細ページで確認できます。