イメージAI失業.comが記録している事例を並べると、ある偏りに気づきます。monday.com、Chime、Visa、Accenture、Fiverr、ルフトハンザ、PayPal。どれも名前の知られた大企業です。人数が公表され、CEOがコメントを出し、報道される。だから記録できます。
しかし、AIの影響を受けているのが大企業の社員だけだと考える理由はありません。
東京商工リサーチが2026年7月14日に公表した数字を見ます。2026年上半期(1〜6月)の「情報サービス業」の倒産は166件。前年同期比18.5%増で、2017年以降の10年間で最多を更新し、5年連続の増加でした。ソフトウェア開発やホームページ制作を手掛ける事業者が対象です。
重要なのは内訳です。**従業員5人未満が135件で81.3%。負債1億円未満が147件で88.5%。** 資本金1千万円未満が107件。つまり倒産しているのは、ほぼすべてが小・零細の事業者です。負債1億円以上の倒産は19件で、前年同期から5.0%**減って**います。
この非対称は、当データベースの偏りとちょうど裏返しになっています。私たちが記録できているのは、人数を公表し報道される規模の会社です。数人でやっている受託開発やWeb制作の会社が畳まれても、企業名は出ず、解雇として数えられず、失業統計にも個別には現れません。件数の集計にしか残らない。
東京商工リサーチは背景をこう書いています。「開発スピードが早いノーコード、ローコードツールや生成AIの普及で、簡易なコンテンツ制作・開発業務の内製化が進み」、価格競争に頼ってきた小・零細事業者が行き詰まっている。
**ただしこれは同社の見立てであって、個々の倒産の原因がAIだと確認されたわけではありません。** 情報通信業全体で見ると、倒産理由の最多は「販売不振」で、2024年は425件のうち293件(約7割)を占めます。物価高、人件費の上昇、下請け構造による価格転嫁の難しさ。AIと無関係な要因も大きい。だからAI失業カウンターには1件も加算していません。
それでもこの数字を記録するのは、**経路そのものが違う**からです。
当データベースの事例の多くは「会社は残り、人が減る」形です。みずほFGは事務職の業務を5,000人分減らすとしていますが、解雇はせず再配置すると明言しています。Salesforceはサポート部門を9,000人から5,000人へ減らしましたが、CEOはこれを「再配置」と呼びました。日本の事例に至っては、ほとんどが「職を失う人は出さない」形をとります。
倒産は違います。会社が無くなれば、そこにいた人は全員が職を失います。再配置する先の部署がありません。5人の会社が畳まれることは、5,000人の会社が0.1%の人員を減らすことと、社会全体では同じ人数の話です。ただし当事者にとってはまったく違います。
そして、この2つはつながっている可能性があります。大企業が生成AIやノーコードで内製化を進めれば、これまで外注していた簡易な制作・開発の発注が減る。**当データベースが記録している大企業のAI導入事例の裏側で、名前の出ない事業者が消えている**という筋道です。もしそうなら、内製化を進めた会社の従業員は職を保ったまま、取引先の会社ごと消えたことになります。
その筋道が実際にどれだけ効いているのかは、公表資料からは分かりません。倒産1件ずつの原因は公開されていませんし、東京商工リサーチも「逆風」という書き方にとどめています。
分かるのは、これまで見ていた場所とは別の場所でも数字が動いているということです。AI失業.comは「見えない失業」の指標として、この倒産件数を追うことにしました。人数は分かりません。件数しか分かりません。それでも、解雇の報道だけを見ていると存在ごと落ちてしまう領域があることは、記録しておく価値があります。
指標は現時点で2点しかありません。半期ごとに点を足していきます。
本記事は AI失業.com 編集部が、イベントデータベースに登録された情報をもとに作成した解説です。 元になったイベントの一次情報・信頼度・AIとの関係の判断根拠は、下記の詳細ページで確認できます。