イメージ「AIで◯万人が職を失った」という数字は、作ろうと思えばいくらでも大きくできます。企業が発表した削減人数を足していけばいい。ただしそれは「AIによる失業」ではなく「削減の総数」です。この2つを混ぜないことが、AI失業カウンターの設計で最も気を使っている点です。
実例を挙げます。Challenger, Gray & Christmas が集計した2026年5月の米国の人員削減発表は9万7,006人でした。このうちAIを理由とするものは3万8,579人、全体の40%です。カウンターに入れているのは後者だけです。残りの5万8,000人あまりは、需要減・コスト削減・事業再編など別の理由によるものだからです。
英国のBTは2030年までに最大5万5,000人を削減する計画を発表しましたが、当時のCEOがAIによる置き換えとして説明したのは約1万人でした。残りの大半はファイバー網の敷設完了にともなう工事要員の減少です。カウンターに入れているのは1万人だけです。
この線引きは、後から決めたものではありません。実際に間違えたから明文化しました。2026年8月1日まで、Challengerの月次3件とBTについて、見出しの総数をそのまま計上していたのです。本文と注記には「AI起因はこのうち一部」と正しく書いていました。しかしカウンターは本文を読みません。結果として2026年の累計が実データだけで28万9,456人となり、本来の約6万5,860人に対して4.4倍に膨らんでいました。訂正の記録は訂正履歴のページに残しています。
この経験から、次の4つは人数として数えないことにしています。
第一に、将来予測です。世界経済フォーラムは2030年までに9,200万人分の仕事が代替されると予測していますが、これは起きたことではありません。しかも経済・人口動態・グリーン移行など、AI以外の要因を含んだ数字です。
第二に、作業量の換算値です。Klarnaは自社のAIアシスタントが「従業員700人分の仕事量に相当する」と説明しました。これは処理量の比喩であって、700人が職を失ったわけではありません。
第三に、割合だけの推計です。IMFは先進国の雇用の約40%がAIの影響を受けると分析しましたが、影響の内容には生産性の向上も含まれます。パーセントを人口に掛けて人数にすることはしません。
第四に、企業が内訳を示していない削減です。オラクルは2026会計年度の年次報告書で、AI技術の導入により人員が減っていると明記したうえで、1年間に約2万1,000人(従業員の約13%)減ったと開示しました。しかし「そのうち何人がAIによる減少か」は示していません。自然減や事業再編による分と区別できないため、この2万1,000人はカウンターに入れていません。Metaの約8,000人の削減も同じ理由で入れていません。
この方針をとると、カウンターの数字は他のどのメディアの数字よりも小さくなります。実際、当サイトが2026年について数えている人数は、報道されている削減の総数の何分の一かにすぎません。
それでよいと考えています。大きな数字を出すことは簡単で、その数字が何を意味しているのかを説明することのほうが難しい。カウンターの横には常に、何件のイベントから積み上げた数字なのか、何を数えていないのかを併記しています。数字だけを切り取って引用されたときに、意味が崩れないようにするためです。
本記事は AI失業.com 編集部が、イベントデータベースに登録された情報をもとに作成した解説です。 元になったイベントの一次情報・信頼度・AIとの関係の判断根拠は、下記の詳細ページで確認できます。